アレルギー・プロセス(アレルギー改善のプロセス)

ロバート・ディルツ 著

免疫学者のマイケル・レビー博士によると、アレルギーは免疫システムの「フォビア(恐怖症)」のようなものだと言います。
1950年代、レビー博士はウィルスに感染性があることを実証した研究で、世界保健機関賞を受賞しました。

免疫システムに関する長年の研究の結果、レビー博士は人がアレルギーを発症するのは免疫システムがある種の物質に対して恐怖反応のようなものを起こし、その物質に近づくとパニックを起こし始めるためだと主張しています。
アレルギー症状はこうした恐怖反応の結果として生じます。

レビー博士はまた、その他のアレルギーは免疫システムの「癇癪(かんしゃく)」のようなものである、つまり、免疫システムが適切にケアされなかったために、ある種の発作を起こしている、あるいは、免疫システムが疲労してしまい、人や子供が癇癪を起こすように暴れていると主張します。

私たちが感情的な反応を学習して身につけるのと同じように、私たちの身体も免疫反応を学習して身につけます。
天然痘やポリオのような致命的な病気が地球上から実質的に一掃されたという事実は、私たちの免疫システムが学習できるという事実を証明しています。

アレルギー問題に対処する時の大きな課題は、免疫システムの再教育です。
私たちの免疫システムには、体内の異物に対処する2つの基本的な方法があります。
それが受動免疫能動免疫です。

受動免疫反応は、主に異物を捕食して消化するマクロファージ(血液中の白血球の一種)によって行われます。
実際、「マクロファージ」という言葉は「大食い」を意味しています。
一方、能動免疫反応は異物を攻撃して破壊するキラーT細胞によって行われます。

受動免疫反応が起こる目的は、非生物を体内から除去することです。
能動免疫反応が起こる目的は、身体を危険にさらすバクテリアのような生きた細胞を攻撃し破壊することです。
ウィルスも私たちの体内細胞を攻撃しますが、これはウィルスの仕組みに起因しています。

ウィルスは基本的に小さな遺伝物質の束であり、自己増殖ができません。
なぜなら、自己増殖するための細胞構造を欠いているからです。
代わりに、ウィルスは寄生虫のように宿主の細胞を乗っ取って増殖するため、否応なく宿主の資源を枯渇させてしまいます。

特定のウィルスを体内から排除するには、免疫システムが体内で感染した細胞を認識し、破壊しなければなりません。
そのために感染した細胞を(化学反応によって)破裂させることもあります。
これが感染症やアレルギーに伴う発赤(皮膚などが赤くなること)や炎症の原因です。

アレルギー反応が起こるのは、免疫システムが無害であるはずの非生物の異物に対して、有害なウィルスであるかのように反応してしまう間違いを犯しているからです。
フォビアと同じように、パニックに陥った免疫システムが混乱状態となり、危険がないにもかかわらず、自分自身の身体を攻撃し始めます。
ある意味、「見ていろ!自分で自分を殴ってやる」といった状態になります。

アレルギー治療の目的は、異物への反応を能動ではなく受動で防御できるように免疫システムを再教育することであり、一種の生理学的リフレーミングと呼ぶことができます。

フォビアと同じようにアレルギーも条件反射です。実際、パブロフの犬を使った実験と似た方法で、モルモットにアレルギーを条件付けできると研究で示されています(ラッセル, ダーク, 他, 1984)。

この実験では、モルモットのケージにペパーミントの匂いを入れ、次に能動免疫反応を起こす物質をモルモットに注射します。
これを短期間に5回繰り返した後、ペパーミントの匂いだけをケージに入れ、有害物質は注射しません。
モルモットの血液を調べたところ、注射をした時と同じ免疫反応が起こっていることがわかりました。
他の研究(エイダー&コーヘン, 1981)では、免疫反応を抑制するようにラットを条件付けできることも実証されています。

精神神経免疫学の分野では、脳が免疫システムにどのような指示を与えるかを理解する上で、多くの貴重な発見がなされています。
ストレスや感情反応は血流中の化学物質の濃度を変化させ、免疫システムの機能に影響を与えます。
しかし、脳と神経細胞が互いにコミュニケーションするために使用する化学物質に対して、免疫細胞も直接反応することが明らかになってきました。

精神神経免疫学では、アレルギー反応などの免疫反応は、心理的要因に影響を受ける場合があるという基本的な前提(NLPにも共通する前提)に基づいています。

これを示す有名な例が1800年代後半、バラに激しいアレルギー反応を示す女性を治療していたマッケンジーという医師(1886年)によって記録されています。
彼は診察室にバラの造花を飾っていたのですが、驚いたことに、患者はそれが偽物であることに気づかず、バラを見たとたんに完全なアレルギー反応を示しました。

私たちの自律神経系(免疫システムでさえも)は、外界からの刺激だけでなく、中枢神経系の内部から生み出される心的表象や予期にも影響を受ける可能性があることを示唆している例です。
確かに免疫システムには素早く学習する能力があります。
アレルギーは、ほぼ自発的に現れたり消えたりすることも知られています。

例えば多重人格の患者は、1つの人格ではアレルギーがあっても、別の人格にはアレルギーがないこともあります。
人は特定のアレルギー反応から「脱却」することができるのです。
能動免疫反応に関与する細胞は、私たちの骨髄で1分間に約8000万個という速度で生成されています。
そのため、一度再教育が行われると、急速に広がる可能性もあるのです。

フォビア(恐怖症)と同じように、アレルギーも系統的脱感作法によって治療できる場合があることはすでに知られています。
しかし、フォビアバージョンの脱感作法テクニックと同様、このプロセスには時間がかかり、効果を出さないこともよくあります。
NLPのモデルと手法を使えば、この脱感作法を大幅に加速させることができます。

そこで、NLPの観点から問いかけなければならないのは「アレルギーに影響を及ぼす心理的要因は何か」、そして「それらの要因をコントロールすることは可能なのか、人は自分の身体の反応、特にアレルギーに関連する特定の免疫反応をうまくコントロールできるようになるのか」という重要な質問です。

これらの問いを探究した結果、ロバート・ディルツはNLPを用いたアレルギー治療の手法を開発し、広く成功を収めました。

アレルギーは免疫システムの「フォビア」のようなものであるというレビー博士の提案を受け、ディルツはNLP創始者バンドラーとグリンダーが開発した有名な「NLP10分間フォビアパターン」を検証しました。
このテクニックは、非常に短時間で人々の恐怖反応に大きな影響を与えることが示されています。

ディルツは、アレルギー反応の原因である免疫システムの「フォビア」を治療するために、同じようなプロセスを開発できないかと考えました。

そして、バイオフィードバックの新手法であるニューロリンクの研究とともに、アレルギーを治療する手法の開発に至ったのです。

この手法は、NLPフォビアパターンと似ているところもあります。
しかし、いくつかの重要な点で異なってもいます。
例えば、NLPフォビアパターンと同様に、このアレルギー・プロセスもディソシエイトの状態を確立します。
これによって脱感作の過程が促進されます。

フォビアもアレルギーも、「反応期待」と呼ばれる心と身体に強い影響を与える過程の結果であるように見受けられます。
反応期待とはプラセボ効果の根底にあるのと同じプロセスです。
マッケンジーのバラアレルギーの患者が実証したように、人は想像力の強さによってアレルギー反応を引き起こすことができます。
この観点からすると、アレルギー症状は一種のネガティブなプラセボ効果の結果なのかもしれません。

NLPの観点から、反応期待とは、予期される反応をその人がどれだけ豊かに内面で表象できるかが表れていると言えます。
豊かな表象は、アレルギー反応に対して人が作り出す内的マップのサブモダリティの質による産物です。
ディルツは、アレルギーを持つ人々にアレルゲンの心的表象が症状に及ぼす影響を調べてもらいました。

そして、アレルギー反応を引き起こす刺激対象を視覚化した時、そのサブモダリティの特定の性質が、身体にアレルギー反応を引き起こし始める可能性があることを発見しました。

自分のアレルギーを引き起こす刺激やきっかけとなっているものについて考えた時の認知的性質の違いによって、自律神経の反応にどのような影響が及ぼされるのかを人々に実験してもらい、ニューロリンク・バイオフィードバック装置で測定し、記録をしました。

例えば、たばこの煙にアレルギーがあるとしたら、たばこの煙を頭の中で思い描いてもらい、それが自分の身体にどのような反応を引き起こすかに気づいてもらいました。
次に、たばこの煙が自分に近づいてきて、煙に取り囲まれるかのように想像し、身体反応がどのように変化するかに気づいてもらいます。

さらにアレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)の表象を遠くに移動させてもらい、アレルゲンとの距離が生理的反応をどのように変化させるかに気づいてもらいました。
他にも大きさ、色、形などの違いも探究してもらった結果、ある程度は、生理的反応を管理できるという感覚を被験者が持てるようになったのです。

しかしながら、アレルギー・プロセスの核心は、適切な「反例」を見つけ、アレルギー反応に関連する二次的利得を確認することにあります。
「反例」とは、アレルギー反応を引き起こす可能性がありつつも、反応を起こさない背景や状況が深く関わっています。
最も一般的な反例のひとつは、アレルギー反応を引き起こす物質と非常によく似ているが、反応を起こさない物質です。

ディルツは、免疫学分野の研究に基づき、免疫システムを「再プログラム」する手段としてこの反例に焦点を当てることにしました。
「反例」は免疫システムが自然に機能する過程の一つであるようです。

例えば、エドワード・ジェンナー(1749-1823)は、この反例の考え方を取り入れたことで、天然痘に対する最初の実用的な予防接種を開発しました。
英国の田舎町で一般開業医をしていたジェンナーは、比較的軽度の牛痘にかかったことのある酪農家の従業員たちは、天然痘にかからないことに気づきました。

ジェンナーは、天然痘のウィルスは牛痘のウィルスと構造的に類似しているため、牛痘にかかったことのある人の免疫システムはどちらも検知できる方法を学習しているのではないかと仮定しました。

1796年、彼は牛痘の膿疱から採取した物質を8歳の少年に接種し、少年に牛痘を発症させました。
数週間後、ジェンナーは天然痘のウィルスを少年に接種してみましたが、発症には至りませんでした。
こうしてジェンナーは天然痘の予防接種を開発し、その習慣は世界中に広まりました。
そして1970年代後半までには、この病気は撲滅されました。

ジェンナーの功績が意味するところは、免疫システムが体内物質の主要な特徴を認識し、区別することによって学習、一般化できるということです。
免疫システムが致死的なウィルスに対する適切な反応を一般化できるのであれば、アレルギーなどの、それほど深刻ではない問題に対しても、同じようなプロセスを使って一般化するように仕向けることができるのではないかとディルツは推測しました。

当初ディルツは、「火渡り(熱い炭火の上を火傷することなく歩くこと)」(1980年代後半にアンソニー・ロビンズによって広まった体験)に成功した人を対象に実験を行いました。
彼らの足の裏が水ぶくれにならないのは、ある特別な反応期待の状態に入っている結果であり、特定の免疫システム反応を選択的に抑制できているからだという仮説を立てました。

ラッセル、ダーク、エイダー、コーヘンの例にならい、ディルツはNLPの条件付けの1つの手法であるアンカリングを用いて、「火渡りのステート」と外部のキュー(合図となる刺激)との間に強い結びつきを作りました。
このキューをアレルゲンと組み合わせることで、脱感作のプロセスを加速させようと考えたのです。ディルツは、適切な条件下でアンカーをかければ、このステートはアレルギー反応を容易に変化させられることを発見しました。

しかしながら、火渡りに成功した体験を持つ人は多くはありません。
そこでディルツは、この体験の代わりとなり、反応期待に適切な変化を起こすことができる反例は、他にもあることを発見しました。

例えば、アレルギーの原因となっている物質より有毒であるにも関わらず、身体が適切な免疫反応を学習している物質を見つけることができます。
香水にはアレルギーがあっても、ガソリンにはアレルギーがないなど、その良い例であると言えるでしょう。
ある種の食物にはアレルギー反応を示しても、有害なウィルス感染には免疫を持つ人もいます。
こうした例が見つかるということは、免疫システムがアレルギー症状を引き起こさずに身体の安全を保てている証拠となります。

ディルツの研究におけるもうひとつの重要な領域は、アレルギー反応に紐づいているポジティブな、あるいは二次的な利得を特定することであり、これはアレルギー反応が変化した後でも、取り入れたり維持したりする必要があります。
アレルギー反応があることで、特定の活動をしなくてすむ、あるいは特定の状況や対立を避けるためのよい口実になることがあります。

また、そのアレルギー反応がないと、アレルギーよりも健康に害を及ぼす可能性のある物質や状況にさらされるのではないかと恐れる人もいます。
たばこの煙にアレルギーのある人は、アレルギーがなければたばこを吸い始めてしまうかもしれないと考えることもあります。

アレルギーは、自分に休養を取らせる、あるいは自分自身の健康状態に注意を向けるための唯一の口実となっている場合もあります。
自分自身を大切にすることを思い出させてくれるリマインダーとなっているのです。

多くの場合、アレルギーはその人がかなりの精神的、肉体的ストレス下にあることを伝えています。
なかにはそうしたストレスが、そこまで大きな影響を自分の健康に及ぼしていると自覚することで生じる責任を受け入れるのが怖いと感じる人もいます。

特別なケースではありますが、父親や母親など、その人の人生における重要な他者がアレルギーを持っていた場合、似たようなアレルギーを持つことがその重要な他者とのつながりを保つ方法であると無意識に感じている場合もあります。

肯定的意図と二次的利得を特定する目的は、相手の選択肢が増えるように手助けをすることです。
NLPの根底にある大原則は、新たな選択肢を加えることでエコロジカルな変化を起こすことであり、既存の選択肢を取り上げてしまうと、そうした変化も可能ではなくなると考えます。
アレルギー反応を変化させる前に、人生の特定の状況に対処する他の方法を見つける必要があるのかもしれません。

こうした新しい選択肢を見つけることは、免疫システムに起こらなければならない変化にも似ています。
アレルギーとは多くの場合、脳と免疫システムが共に間違いを犯した結果であることを覚えておいてください。

実際に危険性がないにもかかわらず、危険なものに侵されていると身体が考えてしまうのです。
そして免疫システムは、本当は害がない何かに対して、防御するように条件付けられてしまいます。
アレルギーを発症するたばこの煙、猫のフケ、花粉、食品は、ウィルスのように私たちの細胞を侵略しません。

それにもかかわらず、免疫システムは自分の細胞が侵略されていると勘違いし、自分自身の細胞を攻撃してしまうのです。
アレルギー症状とは、実際には存在しない侵略者から身を守ろうとして、免疫システムが体内の健康な細胞を破壊した結果として起こります。

またディルツは、この免疫システムの混乱と似たような心理的混乱が生じる人生の特定の時期や状況で、アレルギーが作り出されることにも気づきました。
免疫システムとは、心理面でいう「自己概念」の身体版と考えることができます。

多くの人は、アイデンティティの転換期にアレルギーを発症します。
こうした時期を迎えている人は、「自己」の感覚が外部の何かから挑戦を仕掛けられていると感じたり、脅かされていると感じたりすることがあります。
心理的な脅威と、その結果として生じるストレスによって、アレルギーが発症する場合があります。
例えば、喘息に関連するアレルギーは、トラウマ的な体験と紐付いていることが多く見受けられます。

こうした状況に対処するために、人は過去の体験やトラウマ的体験から自分を切り離す必要があります。
「個人史を変える」、「リフレーミング」、「リインプリンティング」といったNLPのテクニックを使うことで、現在の自分のアイデンティティは進化しており、当時とは違う自分になっていると認識することができます。

身体が古いトリガーや刺激に対する異なる反応を学習できるのと同じで、人生で直面している状況や、危機や危険に対する反応に対処するための、新しい方法を発見することができます。
今の自分が学習していること、持っているリソースや能力を、アレルギー反応のきっかけとなった過去の状況に持って行くことで、異なる反応をしている自分を想像することが可能なのです。

ディルツは、ディソシエイトなステート、ポジティブな反応期待、反例となる参照体験、そして肯定的意図と二次的利得を保存するための新たな選択肢という考え方をシンプルな手法として組み合わせることで、ほとんどのアレルギー反応に対して、ある程度の変化を効果的に起こす手助けができることを発見しました。

実際に、多くのケースで症状から完全に解放されたと報告を受けています。
1985年にディルツがこの探究を開始してから、さまざまな種類のアレルギーを持つ人々に対する具体的な介入法が考案されてきました。
1987年までには、アンカリングの考え方を組み合わせた最初の一般的なアレルギー・プロセスが使用されるようになりました。

以来、「前景/背景のプロセス」などを含み、多くのバリエーションが誕生していきました。
これ以外にも重要なバリエーションが生み出され、アレルギー・プロセスに磨きがかかっていったのは、ティム・ハルボムとスージー・スミスの貢献によります。
この二人とは、『信じるチカラの、信じられない健康効果 Beliefs:Pathways to Health and Well-Being』(1990年)を共著しています。
アレルギー・プロセスは、通常約20分から30分でできるものですが、10分という短時間で行うこともできます。

この記事は、ロバート・ディルツ氏から許可をいただき掲載しています。
This page, and all contents, are Copyright © 1997 by Robert Dilts., Santa Cruz, CA.
http://www.nlpu.com/Articles/article9.htm

参考文献

Learned Histamine Release; Russell, M., Dark, K. et al; Science Vol. 225, August 17, 1984, pp. 733-734.
Psychoneuroimmunology, Ader, R. and Cohen, N.,Academic Press, New York, NY, 1981.
Pavlovian Conditioning of Rat Mucosal Mast Cell to Secrete Rat Mast Cell Protease II; MacQueen, G. et al; Science Vol. 243, January 6, 1989, pp. 83-85.
The Production of the So-Called ‘Rose Cold’ by Means of an Artificial Rose; MacKenzie, J., American Journal of Medical Science, 9, 1886: 45-57.
Psychoneuroimmunology: The Birth of a New Field, Investigations, Institute of Noetic Sciences, Sausalito, CA, 1983.

NLP関連の参考文献[NLP恐怖症の手法について]

They Lived Happily Ever After, L. Cameron-Bandler, 1978.
Frogs Into Princes, Bandler & Grinder, 1979.(『あなたを変える神経言語プログラミング』東京図書、1997)

具体的な参考文献

Beliefs: Pathways to Health and Well-Being, Dilts, et al, 1990.(『信じるチカラの、信じられない健康効果』ヴォイス、2015)
Overcoming Allergies, Anchor Point, October, 1987.